潮騒(しおさい)の島に登る2018/02/23 13:34

カルスト地形
 伊勢湾の入口にある神島は三島由紀夫の小説「潮騒(しおさい)」の舞台となった島で、灯明山は、その最高点だ。港から200段を越える長い階段を上がると神社で、さらに道脇の水仙を見ながら歩道を登ると灯台に着いた。60歳代の夫婦の観光客がベンチで休んでいた。水仙の咲く斜面の向こうには海がきれいに見えた。三島由紀夫の「潮騒」の一節が記載された案内板が有った。灯台の光が間欠的に恋人同士の顔を照らす場面を描いた文章だった。何の変哲も無い古びた灯台を見て、こんな文章を思い描くとは、たいしたものだと感心した。
 灯台から一登りすると灯明山山頂で樹林に囲まれた地味な場所だった。山頂から下って行くと戦前に使われていた監的哨(かんてきしょう)の跡で、伊良湖岬側から撃った試弾の着水地点を確認するために作られた施設だった。観光用にきれいに整備されていた。恐らく三島由紀夫が訪れた頃は、もっと汚れていただろう。ここにも「潮騒」の一節が表示されていた。監的哨の中でたき火を挟んで主人公の二人が濡れた体を乾かすシーンだった。20歳の頃に読んだこの小説を思い出した。この古い建物を見て、このシーンを描くとはたいしたものだとあらためて思った。ちょうど20歳位の男女の観光客が来たので入れ違いに出発した。
 監的哨を下って行くとカルスト地形で海を背景に白い岩がきれいだった。ここにも三島由紀夫の一節を書いた案内板が有った。ここでは前の二つに比べて霊感が働かなかったらしく、あまり風景とは関連しない文章が書かれていた。天才は凡人が何も感じないところでは才能が遺憾なく発揮されるけれど、凡人がきれいだと感じるところでは、さほど才能が発揮されないようだと思った。
 島を一周して、「潮騒」を再度読んでみたくなった。ただ、20歳の頃とは感じ方が違うだろう。我々にとっては、むしろ老年期を迎える主人公を描いた小説の方が感動が大きいかも知れないと思った。