果無山脈のテント2017/11/03 17:09

和田ノ森山頂のテント
 大坂からの特急電車からは紀伊田辺駅で20人ほどの観光客が下車した。バスに乗り換えの客は、ほとんどが「熊野本宮」行き乗り、「龍神温泉」行きに乗ったのは我々だけだった。運転手がわざわざ「これは熊野本宮行きではありませんよ」と声をかけてくれた。龍神温泉行きに乗る旨、間違い無いことを伝え、納得してもらった。他の5人の乗客は全員地元の人だった。我々は終点手前の「西」で住民バスへ乗り換えだった。乗り換え時間は10分だけで、少し遅れ気味だったバスの運転手は、乗り換え停留所で下車してわざわざ住民バスの運転手に乗り換えの人がいる事を伝えてくれた。
 「ヤマセミ温泉」行きの住民バスの運行は月火木の週三日で、運転手を含めて10人乗りの車だった。首尾良く乗り換えると他の乗客は70歳位の女性一人だけだった。女性は運転手と四方山話をしていた。来る時はもう一人乗客がいたらしく、運転手は「歯医者に行ったらしいね。帰りに乗らないところをみると、だれかに送ってもらったのかな」と女性に話しかけていた。女性は我々に「1ヶ月前に山にきのこ採りに行った82歳の男性が行方不明になっている」と教えてくれた。「時間が有るならうちに寄っていってほしいんだけれど」と言いながら途中のバス停で下車していった。
 ヤマセミ温泉は火曜定休で閉まっていた。キャンプ場は10月末まで営業だった。キャンプ場の水道は使えたので、翌日の水場までの水として3リットルを汲んだ。2時間あまり登ると、幕営予定地の和田ノ森山頂に着いた。広葉樹に囲まれた山頂には1張りのテントスペースが有った。こんなところでテントを張る人はいないだろうと思いつつテントを設営していると、少し錆びたアルミ製のペグが頭だけ出して埋まっているのに気が付いた。どうやら過去にここでテントを張った人もいたらしかった。
 風の無い日だった。食事を済ませ、寝袋に入ってラジオを消した。静まり返ったテントには、木の枝の影が月の光で映っているだけだった。